子供の頃から、本を読むのも好きでしたが、
いわゆる愛読書の中の一冊に、バーネット夫人たる
フランシス・バーネット( Frances Eliza Hodgson Burnett 1849-1924)の
『秘密の花園』"The Secret Garden"があげられます。
それは、あらためて書けたらと思いますが
実は、大人のための4篇が収められた一冊が
中村妙子さんの訳で、みすず書房から出ています。
今日は、この本のタイトル作
『白い人びと』"The White People" から。
そのころわたしは、世間の人がよく言うような、ふとしたきっかけでこうなったとか、偶然の成行きでああした結果が生じたといったことは、じつは人生という織物のほんの一部にすぎないのだと確信するようになっていた。それまでのさまざまな出来事を思いめぐらすうちに、途中の経過はどうであろうとも、物事はすべてごく些細なことが互いに関連し合って、そこに理由や意味が生じるのではないかと考えはじめていたのだ。わたしたち人間はあまり利口でないから、原因や理由と結果の連鎖を正しく見きわめられないかもしれないが、この世界にはまったくの偶然などというものはない。結局のところ、わたしたち人間がすべて起こしているのだ。悪が生じるのは人間が正邪の別を知らないか、気にかけないかのいずれの場合で、善が生じるのはたとえ、正邪の別に無知であっても、わたしたちが意識的に、いや、無意識のうちにさえ、善を選ぶからなのだと。
わたしのようにごくふつうの娘がそんなことを言いだすなんて、ひとりよがりもいいところだと呆れられるかもしれない。でもそれはわたしがずっと考えてきたことだったし、どこにでもいるような平凡な人間が、誰にでも理解できる、平易な言葉で、何かを説明するのはわるいことではないとわたしは思っていた。
そういう考えはアンガスといっしょに宗教とか、信仰とか、哲学とか、魔術といったことに関連して、世間の人が奇蹟とか、驚異と呼んでいるような出来事(でも実のところ、とくに目をみはるようなことではなく、ただほかの人がいまだに推論したり、理由づけしたり、受け入れたりしていないだけで、じつは自然の〈法則〉に則っているのだが)について記した、古今の書物を読むうちに、わたしの胸のうちにひとりで芽生えたものだった。
人里離れたスコットランドの自然の中で、
死者の魂を色白の人として視ることができる少女イゾベルが
穏やかに語る幻想的な物語。
『小公女』『小公子』『秘密の花園』など、
子どものための作品で知られたバーネット夫人の晩年の作品。
この作品には、
偶然はなく、すべての物事は自分自身が引き寄せているという哲学、
また、いわゆる“ワンネス”(全てのものは一体である)だったり、
体外離脱に近い、そうした言葉に表わしにくい感覚が
美しく描かれています。
一般的に、人が未知のものとして
“肉体を離れる死”を怖れと捉えがちなのに、
イゾベルは怖れる必要のないことを“知っている”のです。
この作品、2002年に文芸社から初訳出されましたが、
原書(洋書)の扉にあった、献辞が載っていなくて残念でした。
あらたに(2013年)出たみすず書房には、その詩があります。
ライオネルに
夜ごと、星は空に輝き
潮波もやがては沖に還る
時間と空間、高山と深淵
いかなる力が押しとどめようとも
彼は戻る、わがふところ
TO RIONEL
"The stars come nightly to the sky;
The tidal wave unto the sea;
Nor time, nor space, nor deep, nor high
Can keep my own away from me."
これは、若くして他界したバーネットの愛息のことのようです。
あとがきによると、
詩は、アメリカの博物学者ジョン・バロウズ(1837-1921)の
"Waiting"の一節だそうです。
最初読んだ時は、ちょっと驚くほど、
内容は(いわゆる)スピリチュアルでもありましたが、
さすがはしっとりした深みと味わいのある佳品となっています。
この本には、他に短編とエッセーがあり、
コマドリや庭について、童話なども味わえます。
訳者あとがきの最後に、バーネット自叙伝から
この作品に繋がるのではないかというくだりが
引用されていました。
その自伝『わたしの一番よく知っている子ども』
"The One I Know the Best of All" も翻訳されています。
『白い人びと』の帯に印刷された言葉
(めぐる生命の環)がまた印象的でした。
信じてね、ヴィヴィ。私は不幸せをもたらすようなことは書けないの。この世には逃げられないことが数多くあるけれど、私たちの望むのはその反対のもの。生命、愛、希望、それらが本当に存在するということ。―F. バーネット
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