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断捨離ちうではありますが
本棚から
ちょっと面白いというか変わった絵本を
ご紹介します。
その昔、猫グッズならぬ
猫もの関連の絵本を集めていた時期がありました。
もちろん、古今東西
そんなのはきりがないんで
いつしか止めたんですが
その後、幾多の片づけを経て
まだ残っている中の一冊です。
真っ赤な背景に
真っ白な猫さん
右上には
踊る?悪魔さんと
インパクトある表紙ですね。
(ジェラルド・ローズの絵)による
『猫と悪魔』(THE CAT AND THE DEVIL)
何が面白いって
1976年の初版本は、古書扱い
作者が、20世紀を代表する作家
アイルランド出身の
ジェイムズ・ジョイス(1882-1941)
代表作は『ユリシーズ』
『ダブリン市民』『若き芸術家の肖像』『フィネガンズ・ウェイク』
そして訳者が
小説、評論、翻訳でご活躍された
丸谷才一氏ということ。
しかも日本語に
一家言お持ちの氏ならではの
“歴史的仮名づかひの絵本” という趣向ですね。
加えて
ジョイスの専門家である大澤正佳氏による
詳しい解説が
文学好きにはたまらない。
それによると
ジョイスが書いた唯一の童話ながら
実はお孫さんあての私信で
発表するものとは思っていなかったらしい。
お話自体は
民間伝承の“悪魔だまし”というテーマに
基づいているが、
一例としてスイスのお話では
犬とパンがモチーフだったが、
ジョイスは猫にしている。
さらに
ジョイスが、伝承童話、民話、童話、お伽話に
深い関心を長年抱いていたということから
更にジョイスの文学作品との関連性に及び
興味は尽きません。
ノンノの楽しいお話だというのに、生涯をかけて追及してきた主題と方法がおのずから滲み出してきてしまうのも、また作家ジョイスの宿命と言うべきだろうか。これは創作の魔にとりつかれた奇妙に純真で、奇妙に陽気な、不幸な悪魔の物語なのである。
まあ、絵本に戻りましょう。
1936年8月10日 ヴァリエ・シュル・メールにて
スティーヴィー君、
二三日前、キャンデーいりの小猫を送りました。でも、きみは、
ボージャンシーの猫の話は知らないでせう。
ボージャンシーは古い小さな町で、ロアール川の岸べにあります。
ロアール川はフランスで一番長い川で、とつても幅が広いんですよ、
まあ、フランスとしてはね。ボージャンシーまで来ると川幅が広く
なるので、川をこつちの岸からあつちの岸まで渡らうとすると、す
くなくとも千歩は歩かなくちやなりません。
ずっと昔、ボージャンシーの人たちは、川を渡るとき、舟に乗ら
なきやなりませんでした。だつて、橋がなかつたから。そしてボー
ジャンシーの人たちは、自分で橋をかけることも、橋をかけるお金
を払ふことも、どっちもできなかった。これぢやあ、仕方がないで
せう。
そして悪魔(はいつも新聞を読んでる)が
橋がなくて困っていることを知って
市長さんの所へ出かけていくのです。
世界で一番良い橋を一晩でかけてあげよう。
お金なんか要らないけれど
一番はじめに橋を渡る者を家来にしたい
そういう申し出をして、市長さんが受け入れます。
さてすてきな橋が出来た朝、
人々はたもとに集まりますが
誰も渡ろうとしません。
だつて、こはいもの。
そこへ赤いマントを着た市長さんが登場。
片手には水が一ぱい入っているバケツに
片腕には猫を一匹抱いて。
まあ、こういう感じで
お話しは進むんですが、
結末はご想像ください(笑)
それからといふもの、この町の人のことを、「ボージャンシーの
猫」といふんです。
しかし、橋は今でもちやんとあつて、
男の子たちが、散歩したり、馬に乗つ
たり、遊んだりしてゐます。
このお話、気に入るといいね。
おぢいちやん
ところで
私はこの絵本を昔から持っていたわけではなく
猫もの絵本にはまって知った後で
欲しくてアマゾンの中古市場で手に入れたのですが、
ジョイスおぢいちやんとお孫さんの微笑ましい写真も
載っていました。
そしてまた
興味を惹かれたのは翻訳者の丸谷才一氏の
表記についてのあとがき
この絵本の表記は今の日本の普通の絵本の表記と違ひます。眞向から対立してゐる。その主な違ひは次の三点といふことになるでせう。
⑴ 歴史的假名づかひを採用してゐる。
⑵ 漢字をちつとも遠慮しないで使ふ。
⑶ 分ち書きをおこなはない。
つまりこれを逆に言へば、今の日本の絵本はみな、新假名づかひで書かれ、漢字は
使はないかそれとも極力避け、そして分ち書きをしてゐる。絵本の文章はかう書くものと、みんなが思ひ込んでゐるやうです。それ以外の書き方があり得るなんて、誰も思つてゐなかったのぢやないか。ですから、わたしのこの絵本は表記の点で途方もなく非常識だ、横紙やぶりだといふことになるでせう。
これは出だしの文章なのですが
要は、丸谷さんは文部省の国語政策、根底に明治維新以後の日本文明に
批判をお持ちだったんですね。
詳しくは、ご著書の『日本語のために』(新潮社)をごらん下さい、って。
この本は今いろいろ合わせられて?
文庫になっているようですね。
まあ好みや意見はいろいろありましょうが、
日本語について、言葉について
深く考察する機会というのは
なかなかないかもしれません。
時代はどんどん変わっていきますが
日本語ってちょっと
特殊な言語な気もします。
そのうち、読んでみようかな。
また、ジョイスの短編集『ダブリン市民』は
淡々とした味わいがあるのですが、
ちくま文庫で新訳も出ているようですね。
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