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イギリスの作家E・M・フォスター(1879-1970)の小説
『ハワーズ・エンド』というのは、
イギリス郊外の邸宅の名前である。
ハワーズ・エンド (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 1-7)
- 作者: E・M・フォースター,吉田健一
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2008/05/12
- メディア: 単行本
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巻頭のページに記された
“Only connect…” (オンリーコネクト)
「ただ結びつけることさえすれば……」(吉田健一訳)
小説の書き出しは、
まず、ヘレンがその姉に宛てた何通かの手紙から始めたらどうだろうか。
で、始まり、“古くて小さくてなんとも感じがいい、赤煉瓦の家”
ハワーズ・エンドに招かれ泊まっていた妹のヘレンの手紙へと続く。
この文芸作品の見事な映画化は、1992年で
『眺めのいい部屋』(1986)『モーリス』(1987)と知られた
ジェイムズ・アイヴォリー監督による。
一面に咲くブルーベルの草原を歩く姿など、
美しい映像も印象に残る。
アンソニー・ホプキンズや
エマ・トンプソンといった充実した俳優陣で
大変、素晴らしい映画となっている。
主な登場人物は、 上流中産階級の
知的・芸術的で理想主義なシュレーゲル姉妹と弟、
(姉をエマ・トンプソン、妹がヘレン・ボナム=カーター)
片や、現実主義で資産家のウィルコックス家の人々。
そして、シュレーゲル姉妹の知人となる
繊細な青年レナード(サミュエル・ウエスト)は
20世紀初頭のイギリス
同じ中産階級でも、本質的、文化的指向が異なる彼らが、
唯一、ウィルコックス家で芸術性を解していた
夫人ルース(ヴァネッサ・レッドグレイヴ)の生家であり、
遺産となった、ハワーズ・エンド邸をめぐって
いわば運命的に結びついて
繰り広げられる人間模様が描かれていく。
実は、ウィルコックス夫人は、病で亡くなる前に
”ハワーズ・エンドをマーガレット・シュレーゲルに譲る”と
書き残していたが、鉛筆の走り書きであったため
遺族のウィルコックス氏と子供たちは、相談の上
とりあわないことにして、燃やしていた。
彼らにとってはハワーズ・エンドというのは一軒の家で、それが故人にとっては一つの精神であり、故人がその精神的な後継者を求めていたことは彼らに解るはずがなかった。 136頁
その後、ウィルコックス氏は、シュレーゲル姉妹の姉
マーガレットに惹かれて再婚し、二つの家族は
結び付けられていく。しかし、妹のヘレンは
知人のレナードが職を失ったきっかけとなった
ウィルコックス氏を許せない。
息子のチャールズが継ぐことと
なっていたのだが…。
最終的には、
家(邸宅)が住む人を選んだ、かの如く、
異質にみえた、あらゆるものが結びつき、
ルース(前ウィルコックス夫人)の願ったとおりに
その精神性も引き継がれていくであろう、との
不思議なめぐり合わせに、深く感じ入ることになる。
異なる文化や階級の結びつき、寛容と許し、
といったテーマが、フォースターの作品に
流れているという。
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ところで、同じアイヴォリー監督で
アンソニー・ホプキンズと
エマ・トンプソンの名演による
英国の屋敷をめぐる名画といえば、
カズオ・イシグロ原作の
『日の名残り』(1993)もある。
さて、ついに
この『ハワーズ・エンド』を、
テレビドラマ化することになって、
キャスティングも決まってきたらしい。
映画でエマ・トンプソンが演じたマーガレットを
同じくアンソニー・ホプキンズのヘンリー役に
マシュー・マクファレン。
はて、どこかで聞いた名前と思ったら、
映画の『プライドと偏見』のダーシー役でしたね。
イギリスでのドラマが出来上がったら、
日本でも見たいなぁ(笑)
映画を見てから、
今、原作を読んでいる。
劇的な物語性を押し出すものでもなく、
事細かな人々の描写と心理が描かれはするものの、
淡々と進んでいく作品。
オースティンの作品と同じように
それでも、惹きつけられる何かと味わいがあり、
人間についても、出来事についても、全ては
あらゆる側面があって、短絡的な理解は求められない。
それでも、人は繋がり、時に衝突し、折り合い、
という、ある意味、人生の真実を垣間見るような
深みと広がりを呈してくれる。
イギリス文学は、老成、いや成熟した文学
とも言われる面もあるのだが、
この本は、ある程度、年を経てから
今、手にしてよかったと感じる。
かくして、興味を持った
一冊の本、はたまたDVDが、
次の作品を連れてくる。
日常の諸事の合間に、別世界へ移動しつつ、
(いや、そのエッセンスは、普遍的なものでもあり…)
あれも見たい、これも読みたい、と
あっというまに日が過ぎる…のであった。
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